新型の防波堤に関する、英語ニュースサイト「JAPAN TODAY」の記事に寄せられた海外のコメントです。

和歌山県沖に設置が始まったこの防波堤は、普段は海中に沈んでいますが、
緊急時には空気圧によって上昇し、津波の力を弱めるというもの。

記事で述べているように、防波堤が船の通行の邪魔になるから、
また美観を損なうから、という理由でこういう 「収納式」 防波堤が開発されたとのことです。

確かに防波堤は津波を防ぐという目的がなければ邪魔なものだし、
美観の面でプラスにならないことも確か。
しかし、その配慮が防波堤の強度や効果を弱めていないか、というのは正直心配なところです。

ニュースサイトの「JAPAN TODAY」についてですが、
在日外国人や外国人に向けて、日本に関する情報を発信しています。

コメントを見ると日本についてよく知っている人も多く、主な読者は在日外国人であるようです。
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【記事の訳】
浮上式防波堤、和歌山県沖で動作試験
(4月5日)

和歌山県--津波の力を弱めるための全く新しいタイプの防波堤が開発されました。
他の防波堤と違う点は、普段は海底に沈んでいるため、
船の交通の邪魔にならないこと、それから海の美観を損なわないことです。

津波警報が発せられると数分でこの防波堤がせり上がり、津波に対する障壁になります。
先週、この防波堤システムの最初の部分が設置され、実験に成功しました。
下の動画は、その実験の様子です。

浮上式防波堤を動作試験 津波対策で世界初 携帯用動画
 

海底13メートルの深さから海上7メートルまでせり上がるこの防波堤。
動画を見た人は、複雑な機械が海中にあると思うかも知れません。
しかし実は、空気によって動いているだけなんです。

警報がなると陸から堤防内部に空気が送り込まれ、上昇します。
緊急事態が去ると空気は放出され、海中へと沈みます。
この装置は複雑な機械を使うよりも、ずっとメンテナンスが簡単に済みます。

非常に優れた装置ですが、
予定された230メートル長の防波堤のうち、9メートルが設置されたにすぎません。
防波堤の完成は、2020年。総工費は7億3千万円に上る見込みです。


以下、このニュース記事に寄せられた海外の反応

■ 「他の防波堤と違う点は、船の交通の邪魔にならないこと、それから海の美観を損なわないこと」……。美観も考慮されるとは、思いもよらなかったな。しかも沿岸でやってる公共事業で、そういう事を考えるとは。+3


■ もし津波が来たときに作動したら、素晴らしい(多分作動するね)。しかし言いたいのは、絶対に、絶対に津波の力を過小評価してはいけない。+3


■ 空気さえあればいいんだな。そして電気は、あまり必要としない。予備の補充用空気があるんだろうね。+2


■ この記事や動画では、細かいことがよく分からないなあ。この壁がうまく作動しますように。+1


■ 海の美観を気にするのは、もう今さらって感じじゃないか。テトラポッドが大量に置かれてすでに美観を失ってる沿岸ばっかりだよ。+1


■ なかなかいいですね。ただやっぱり、巨大な津波は防げないだろうな。あと実際の地震の時の、電力停止などいろんな状況に備えてしっかりした安全装置がついていてほしいです。+2


■ 素晴らしい……ただやっぱり、予定どおりの効果があればの話。+1


■ 日本版「デルタ・ワーク」だ!+1
※オランダの大規模な沿岸工事


■ うまく作動してほしいです。それと建設中の7年間に、大きな津波がありませんように。津波の前に当然地震がありますが、その地震に防波堤が耐えられるかどうかも心配。
そういえば東京電力は今回の津波を「想定外」としているが、それを起こした大地震でさえ原発には大ダメージは無かったわけだよねえ。
推測ですが、この防波堤は「ありそうな津波」というよりは 「もしかしたらあるかもしれない津波」 に備えてのものなのでは。総工費は僕には、非常に安いように思えます。+1


■ 人間が自然に対してできるのは、チャレンジだけだ。完全に守れることなどない。そして重要なのは、実際に津波が発生した時が、本当の最初のテストだということだ。


■ なんで海の中に作るんだろう。水中に作るのは時間がかかるし、海底は不安定だろう。沿岸の陸地に作った方がいいんじゃないかな。


■ (テレビSF人形劇の)「サンダーバード」 のようでかっこいいな。しかしあれでは、波は止められないんじゃなかろうか。
大震災から何も学んでないんじゃないか?津波はああいう防波堤をなぎ倒したり、根こそぎ抜いたりする。私は絶対に、ああいう物を信用しない。
誰も分からないのか?あんな防波堤は、大自然に対して無力なんだ。単純な事だ。だからああいう物に金を費やすのはやめろ!
どうせ金を使うなら、人の居住地を高いところへ移すための道とか手段に使った方がいい。+2


■ この機械が効果があるなら、和歌山県民にとっては本当に嬉しいことですね。ただもし、水中に沈んだままだったら……。多くの人が亡くなることになります。


■ 忘れてはいけない。相手は自然だ。我々の手には負えないんだ。


■ 普通の堤防とは違い、波を一切通さないというものじゃないんだな。津波の威力を弱めるものだ。だから、通常の防波堤よりは弱い物で良いという考えなんだろうか?どうも弱々しく見える。もしかすると、たった1千万ドルしか使わないだから、失敗しても構わないという考えだろうか。




ここまで翻訳のプロに文章をお願いしておりました、忙しくて(笑)
プロならではの分かりやすく素晴らしい文章でした、ありがとうございます。

少し古い記事ですが、今回は浮上式防波堤についてとり上げさせていただきました。
海外のコメントでも、自然が相手だから手に負えない、というような意見が目立ちました。
それだけ、日本の津波についてその威力と恐怖を感じているということでしょう。


日本でも否定的な意見が目立つ浮上式防波堤ですが、
この防波堤では津波をすべて防げるものではなく、
津波のエネルギーを減らすのが主な目的のようです。

まだ未完成なのですが、こういった前向きな姿勢から始まり、
後に世界を驚かすような素晴らしいものが出来てきたのも事実です。

しかし、本当に津波に耐えられるのでしょうか?
少々心配ではあります。


詳しくはこちらのページで説明されています。

直立浮上式防波堤による津波制御技術(pdf)


今はまだ未完成で何とも弱々しく見える可動式防波堤ですが、
鋼管の長さ(深さ)は30mあるとのこと
20121006 和歌山県海南市で「浮上式防波堤」の建設はじまる 携帯用動画


今回の浮上式防波堤ですが、現時点では少々不安なのは
私だけではないでしょう。
しかし、日本でも数々の事例があるように、
最初から完全なものは造られないのも事実であり、
今現在で無駄と言いきってしまうのは少々早計な気がします。

この点について、先々の更なる発達を願い、状況は違いますが
あえて一例をとり上げつつ考えてみたいと思います。



多くの方が既に知っていると思いますが、
結果として多くの人命を救った和村幸得(わむら・こうとく)村長の話です。

和村さんは1947年~1987年まで40年にわたり、岩手県の小さな漁村、
下閉伊郡普代(ふだい)村の村長を務めた人物です。


大きな地図で見る

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普代村では1896年の明治三陸地震や1933年の昭和三陸地震など、
昔から津波が押し寄せ、多くの被害が出ていました。
和村さんは昭和8年の昭和三陸地震を経験し、
後の著書にて
「阿鼻叫喚とはこのことか。堆積した土砂の中から死体を掘り起こしている所を見た時にはなんと申し上げてよいか、言葉も出なかった」
と書いています。


どうしても村民を救いたい

和村村長はこの想いから長年にわたり県に掛け合い、大きな防波堤を望んできました。
費用が掛かりすぎる点など、もっと低いものにするという意見もありましたが、
過去の教訓から和村村長は15メートルという高さは絶対に譲りませんでした。
そして、防潮堤と水門を完成させるのですが、
今から40年ほど前に完成した高い水門と防潮堤は結果的に村を救うことになりました。

詳しくは ↓ の動画にて
村を救った15mの防潮堤・秘話 携帯用動画


Tsunami 想定外の津波に世界一の釜石防潮堤と普代村巨大水門の効果  携帯用動画
 



場所は違いますが、結果的にこれだけの津波から村民を守れたのは
素晴らしいことだと思います ↓
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                 ↓
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同時に、これだけの津波を前にどれだけ防げるのか、非常に心配になります。
津波は、波の強さではなくて、海の重さがそのまま押し寄せてくるものなので。



水門の位置(googleストリートビューでは修理前で壊れていて、当時の凄まじさを物語っています)

大きな地図で見る (久慈消防本部の職員が一部の水門を手動で操作して閉じ、津波を食い止めることができたとのこと)


赤丸が水門位置です ↓
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水の高さを13mに設定してみましたが、水門がなかったらはるか上流まで河をさかのぼり、
集落に大きな被害をもたらしたのは間違いなさそうです。
動く地図で他の地域を調べるにはこちらにて



総工費36億円以上とのことですが、
人の命はお金では決して戻らないということを実際に体験してきた人だったからこそ、
どれだけ重要なのか、恐ろしいものなのかを知っていた村長。

しかし、知っていただけではこれだけのものを造る事は難しいでしょう。
書籍にも書いてあるように、村長の村民を救いたいと想う強い願いがあって、
そして村長の情熱に動かされた人たちによって、
初めて実現したものがこの一連の防潮施設であると思います。


そして、村の人々を守るという村長の願いは、時を超え通じたようです。
今では故・和村幸得村長のお墓をお参りする人もでてきたということで、
和村さんもきっと喜ばれていることでしょう。



コストと実用性を比べて、高いところに住めばそのほうが良い、という声もあります。
しかしお金では命は戻ってこない事は今見てきた通りです。

日本では高いところに住めば良いかも知れませんが、
国によっては国土全体がなだらかだったり、海抜が低い場合もあり、この防波堤がもう少し発達すれば
そういった国々では大きな力を発揮するのではないでしょうか。

そして、そういった国々を助けることは、
将来、日本を助ける事につながるのではないか、と思います
(これはお寺と幼稚園の関係話に似ているかと。それはまたの機会に)
実際に、東日本大震災で世界中から日本は助けてもらいました。

スマトラ沖大津波 携帯用動画

被害を受けた国では日本の何倍もの犠牲者を出し、復興も大変な中、その後の東日本大震災で支援してくれました


今回の浮上式防波堤は正直、まだ心配な段階ではありますが、
さらに発展し、日本のみならず多くの人々を守ってくれるようになる事を願うばかりです。



ちなみに、津波で一部が壊れてしまった普代村の水門ですが
復旧工事は2013年3月24日に終わり、故・和村村長に感謝する顕彰碑が水門近くに建てられました。

碑には
「先見の明に感謝の意を表し教訓を後世まで受け継ぐ」
との柾屋伸夫・現村長の言葉も刻まれており、
碑の建設費は村民6人による実行委員会が村を歩き回って集めた91万8000円のほか、
残り約240万円は村が負担したとのことです。



今回の例は紹介したかっただけなので論点がずれていますが(いつもですが)
更なる発展を願い、あえてとり上げてみました。
津波を防ぐために様々な方法を模索するのも一つの手ではないでしょうか。
あとは実用性とコストの問題ですね・・・。