今から150年ほど前に日本に伝わったイギリスの鉄道は、
日本において、海外とは異なる独自の進化を辿ってきました。

より速く、より遠くへ・・・。
人々は時代の流れと共に、より安全・快適な旅を求めるようになり、
速さだけではなく安全性も鉄道に欠かせない要素となってゆきます。

鉄道敷設から80年ほど経った昭和30年代に入ると、
自動車の急速な発達とともに、アメリカだけでなく日本でも
鉄道は時代遅れの産物と言われるようになりました。

その後、「新幹線開発は世界の3バカ」 とまで言われてしまいます。
多くの人から 「税金の無駄使い」 と非難されました。

しかし、極東の小さな島国に誕生した新幹線は、
その後、世界の価値観をひっくり返しました。
航空機産業こそがこれからの自国をけん引すると考えていた国々も多いなか、
世界中に大きな衝撃が走りました。

そして、飛行機や自動車に重きを置いていたヨーロッパや中国でも
鉄道の重要性を再認識して現在に至ります。
オバマ大統領さえも、環境と効率から鉄道の是非を再検討する世論を受けて
高速鉄道に興味を持たざるを得ない状況です。

世界中が速さや効率・利便性を競い自動車や飛行機に傾倒してゆくなか、
日本ではそれらを満たしたうえでの安全性や快適さといった、
すでに次世代の要素を念頭に置いて開発されてきました。

今回の動画では、日本の鉄道に実際に乗車しながら
イギリスからジョン・デイビットさんが日本の鉄道について
JRの職員さんにインタビューを交えながら解説しています。

正確な運行をしていることで有名な日本の鉄道について、
自国の鉄道と比べたりする海外のコメントが寄せられていました。

Travel in Japan: A look at the Japanese Railway



今回もネイティブの方に動画音声を翻訳していただきましたので、
まずはそちらをどうぞ ↓

・0:16~
04-001
私はジョン・デビットです。世界でも有名な日本の鉄道に乗っています。
これから日本の鉄道における安全対策、切符の買い方、
旅客情報の掲示板などについて一緒に見ていきましょう。

・1:42~
 04-002
これは日本の切符の券売機です。
私は今新宿にいますが、ここから六本木までのチケットを買ってみましょう。

値段は210円ですが、まず券売機の英語のボタンを押して英語画面を表示します。

お金を入れて、該当値段のボタンを押します。
04-003
これだけです。

改札の通りかたは、ゲートが開いていても切符を入れて通ります。
04-004
もし間違った切符を入れた場合にはゲートが閉じて通れないようになっています。
(注:日本とは逆で、イギリスでは通常ゲートは閉じており、人が通る時だけ開きます)

・02:46~
04-005
 それでは、グリーン車の中を見てみましょう。
いわゆるファーストクラスに該当するものです。

誰もが利用できる基本的なサービスとしては飲食が提供されるほか、
座席にはリクライニングがついています。
04-006
車内にはトイレがついていて、また赤ちゃんのおむつも変えられるようになっています。
04-007
面白いところとしては車内では携帯電話をサイレントモードにしておかなければなりません。

また日本はリサイクルに熱心なので、
車内のゴミ箱においてもカンとペットボトルは別のゴミ箱です。
駅ホームのゴミ箱も紙類と缶やペットボトルは別になっています。
04-008

車内のサービスは非常に良く、笑顔とアイコンタクトを欠かしません。
これは駅における車掌さんの対応も同じです。
駅停車中には数分で車内の清掃を行います。
04-009

・4:30~
04-010
駅で電車を待つ人は印のあるところで待ちます。
目の不自由な方が線路内に落ちないように黄色いプツプツがつけられています。
電車は定刻きっちりに出発します。

・5:20~
まず信号機が設置されていますが、
これは運転席内部でも確認できるようになっています。
04-011jpg
またドアのロック確認を怠らないようにチェックランプがついています。
運転士は発車時刻を守り、管理しなければなりません。
04-012jpg
駅員は発車時刻を確認し、駅長に報告します。
04-013jpg
また、駅構内における列車の発車の際の安全確認は駅員が直接目で見て、
さらにモニターを用いて確認します。

・6:55~
 04-015jpg
Q.新幹線におけるサービスに驚いたのですが、
  お客さんはどのようなサービスを期待できるのか教えてください。

A.まず新幹線の中では車内の飲食サービスがご利用いただけます。
  飲食に最適化された車両ではありませんが、
  これは出来る限り座席にゆとりを持たせるため、
  座席の広さや快適さを優先して考えられているからです。
04-014jpg

乗客の方からはあまり食堂車は望まれていないので設置を見送っています。
熱心な鉄道ファンの方のなかには食堂車を熱心に望まれる方もいらっしゃいますが、
それはマイナーな部類です(笑)

・8:00~
 イギリスには独自の設備があります。
04-016jpg
改札は携帯電話をタッチすることで通れます。

日本では食事の車内販売が基本サービスでしたが、イギリスでは食堂車がついていて、
そこでサービスを受けることができます。
04-017jpg

04-018jpg

日本では安全に運転する技術と工夫についてみてきました。
また券売機のところでは、値段の情報がすぐ上に掲示されていて、
それを見てお金を入れてボタンを押すだけで切符を買うことができました。
04-019jpg
改札に関しては基本的に開いていて、
切符を入れてスムーズに通れるような工夫がなされていました。

ホームではどこで電車を待てばいいかの掲示があって、
その場所ぴったりに電車が入ってきて定刻通りに出発します。

日本の駅においてはトイレやATMなどのサービスが充実しており、
04-021pg
しかも非常にわかりやすいマークを用いた掲示で案内されていました。

また駅には大きなショッピングモールやオフィスなどが併設されていて、
お金があればそちらも楽しめます。
04-020pg

私たちは日本のこのような良いところを
イギリスにも真似して取り入れていくべきではないでしょうか。
そうすればもっと安全な鉄道運営ができると思います。
04-022pg

今回の日本での鉄道旅行は非常に興味深く、役に立つものでした。
04-023pg
あなたも外国の鉄道に乗ってみてそれを観察してみてはいかがでしょうか。

・10:50~
04-024pg
皆さまが日本に来られてJRを利用してくださることをおまちしております。
その時には駅員のことも見てみてください。
彼らは非常に熱心に時間を守って働いております。



以下、この動画に対する海外の反応

■ 日本は1960年代半ばから超特急電車(新幹線)を運営していたよ。 私は昔フィラデルフィアの郊外 (リドリーパーク) に住んでいて、日本で最初の超特急の写真をPhiladelphia Bulletin (フィラデルフィア速報・アメリカの地方紙) で1963年の後半に見たよ。 今は亡き私の父が 「あれは未来の旅客列車だよ」 って言ってたのを覚えてる。
+6  アメリカ


 ■ re:新幹線は1964年の10月1日までは商業的運転はしていなかったはず  インド


■ このビデオを投稿した奴はクソやろうだな。+1  南アフリカ


私はいろんな国に行ってきたけど、(新幹線は) 地球上で最高の列車サービスだよ  アメリカ


■ すまないが、この企画をしたやつはクソだ。  南アフリカ (2つ上と同一人物)


■ JR東海の職員の英語、へたくそ。+4  日本


■ この線路網は日本のいいところの1つだよ。 ほかの国の列車はそれぞれの路線が独立してるから (不便)
。 主要な駅はターミナル駅と違って、とてもスムーズに列車の乗り換えができるようになっているよ。 とても便利だ。 日本とほかの国とのもう一つの違いは、とても密集した運行スケジュールにある。 通勤ラッシュの電車はなんと3分おきに出発するんだぜ。 新幹線でさえ東京駅では10分おきに運行しているんだ。
 これらの列車は自動車に比べて10倍もエネルギー効率が良くて、そしてはるかに安全なんだ。+2  アメリカ


俺はネパール人だけど、ネパールの電車は20キロの距離を3.5時間で走るんだぜ(笑) +2  ネパール


■ 日本の鉄道システムは本当に素晴らしいわ。 ところで、この日本人の英語はちょっとひどい・・ buttonを
思っきりボタンって発音しているし・・ +2  シンガポール


俺はインドから来たけど・・・日本の鉄道網は素晴らしい。 本当に最高だ。+4  インド


 ■ re:おお友よありがとう! 日本からの挨拶を!+1  日本


■ アメリカのダラスからだけど、悲しいことに俺たちの町の鉄道は40-70km/hしか出なくて、旅客車はほとんど存在しないんだよ。 ここの道路は安全ではなく、俺たちは最近車のタイヤを失ったばかりなんだ(はぁ)。 早くテキサスからの特急列車が開通することを願っている。 彼らは新幹線の700系と似たような車両を採用するようだ。+1 アメリカ
 
■ 旅をしたくなりましたね! +1  アメリカ


■ 最初に流れてるのって中国の音楽じゃないですか?笑  日本


グリーン車は富裕層のためのものだろ。 貧乏な一般人は青い車両に乗るんだ。 アメリカ


 ■ re:今の富裕層はもはやグリーン車よりも、遥かに贅沢な車両(グランクラス)に乗るんだよ  台湾


■ 最初のBGMは中国の音楽で日本のじゃないよ!!  日本


 ■ re:本当にばかばかしいよな  カナダ


(一部を除き、ここまでプロのお仕事)

多くの方が指摘しているように、確かにBGMが中国っぽい・・・。
投稿者のデイビッドさんが叩かれている理由はこのBGMのせいかも。
でも、思ったより多くの外国人の方がこの音楽は日本ではない、
と言ってくれていて少しほっとしました(笑)

さて、動画内でデイビットさんが細かく解説してくれている日本の鉄道ですが、
元々イギリスによってもたらされたのは教科書にも書いてあるとおり、周知の事実でしょう。

イギリスの技術を導入した鉄道が日本に開通する3年ほど前の1869年、
ヨーロッパはもちろん、ヨーロッパの植民地にも鉄道網が発達していました。
アメリカでは大陸横断鉄道が開通し、
その頃アメリカには約56,000kmの鉄道網があったといいますから、
かつての日本が、鉄道においても欧米にいかに大きな遅れをとっていたかが分かります。

国土が大変広いアメリカでは 鉄道全盛期を迎えた後、
自動車や航空機による輸送に移り変わってきましたが、
最近ではそのエネルギー効率の高さから、鉄道輸送が見直されています。

自動車が普及した現在においても、
日本における鉄道はもはや無くてはならない存在です。

海外の鉄道技術を取り入れてから長らくの間
日本と海外の鉄道との間には非常に大きな差がありましたが、
日本人は持ち前の勤勉さで克服し、それらを大きく飛躍させてきました。
現在では日本における厳しい環境のなか、独自に進化し現在に至ります。


ここに一冊の技術書があります
材料及び工作法 鉄道総局0098
材料及び工作法 鉄道総局.zip
材料及び工作法 鉄道総局.pdf 
(上記技術書は1999年12月末日に著作権消失済みです)

終戦直後の昭和23年12月、材料と工作機械について 簡単にまとめられたものですが、
この時点でかなり研究されているのが分かります。
もちろん、その知識の多くは 元々、海外から入ってきたものでした。

日本人はこれよりも もっと昔から、知りたいことがあると素早く日本語に翻訳し、
書物に残し研究してきたという歴史があります。
これは元来、日本人が好奇心旺盛ということもありますが、
良いものを学び 取り入れる下地が早くから出来あがっていた、とも言えるでしょう。

今回のコメントではJR職員さんの英語に突っ込む方も多かったのですが、
日本では、主なものは早くから日本語へ翻訳されており
また、日本の文化自体が非常に多種多様に細分化されている背景もあり、
海外ほど英語を重視する必要がなく暮らせていますので、仕方がない部分かもしれません(笑)



話を鉄道に戻しましょう。
安定した鉄道を運用するためには、
非常にたくさんの項目が高度に満たされる必要があります。

ごく一例を挙げるだけでも、
・平坦なところの少ない島国という立地でも、鉄道を敷設できる橋梁・トンネル工事技術
・住宅密集地を安全に駆け抜けるための保線保守作業
・より少ないエネルギーで走れ、乗りごこちの良い新型車両の開発
・たび重なる災害が起きる日本での運用技術と災害想定・訓練

上記以外にも、純度の高い金属が求められたり
個々の部品も効率の良く故障しづらいものが求められる事はもちろん、
いかなる時にも停電せず安定した電力を確実に届ける電力設備など、
鉄道以外の分野も優れている必要がありますし、
それらを可能にする法整備やエネルギー調達、
周辺開発事業、長期推移計画などまで含めると、
政府としての力も必要になってきます。

様々な分野の技術やマンパワーの集大成である鉄道は
まさに 「国家のバロメーター」 とも言えますが、
それを可能にするのは国民の理解が不可欠である事から
最終的にはやはり、その国に住む人々が作り上げた文化そのものと言えるでしょう。

幸いなことに、日本はこれらを高度に満たす数少ない国であり、
海外コメントでも触れられておりますが、
なかでも時間の正確さにおいて世界トップクラスを誇るのが
日本の鉄道でもあります。

それでは、海外のコメントを通じて海外・日本の鉄道を見比べたうえで、
各国における鉄道の特徴などを見てゆきましょう。



<ネパールにおける鉄道>
NP

「ネパールの電車は20キロの距離を3.5時間で走る」
というネパールの方のコメントがありましたが
これは大げさでも自虐ジョークではなく、まったくその通りでした(笑)

ネパールでは、唯一の鉄道(ジャナクプル鉄道・またはネパール鉄道)
が走っていますが、経済的理由から老朽化が激しいのが実情のようです。


ジャナクプル鉄道の線路脇には鉄道所有の並木が並んでいるのですが、
沿線の村人が焚きつけ用などに切ったりするため、枯れる木が後を絶たないということです。

そのため、ネパールでは線路の枕木も入手が非常に困難なうえ、
インドから譲り受けた枕木も51km中わずか0.1kmほどしか
交換作業が進んでいないとの記述がありました。

ジャナクプル鉄道では機関車も客車も大変 年季が入っており、
世界中の鉄道ファンを惹き付けるほど素晴らしいものですが、
あまりに古いため故障が多く、また部品も手に入らないので
関係者は頭を悩ませているようです。

ジャクナプル鉄道

屋根の上からの景色なのですが、逆に見晴らしが良いですね(笑)


ネパール唯一の鉄道をここまで見てきましたが、実は日本も他人事ではない部分もあるんですね
以下は日本に存在する 「地域鉄道」 の現状です。
Regional rail002
↑ 平成24年度には全91社中69社、
割合にして約8割の事業者が鉄軌道業の経常収支ベースで赤字を計上

Regional rail001
出典:国土交通省(pdf)

上記から、トンネルの耐用年数60年を超えて使われているものが26%
橋梁に至っては耐用年数40年を超えているものが全体の62%まで達しており、
人々の関心が薄い地域の路線では国が違っても同じ結果になる、と言えそうです。

こういった路線は世界各地にありますが、
海外では日本とは違った方法で難を逃れているところがあります。
(それは続編に書きたいと思います)


ちなみに、ネパールのジャナクプル鉄道には人力トロッコのようなものに
オートバイ用の50ccエンジンを積んだ車両(?)もあるそうで
もっぱらこれが一番稼働率が高いとのこと。

もちろん単線なので、客車(1日3往復している) ↓ が来たら
Nepal_Railway
トロッコ型を3人ほどで持ち上げて線路からどかし、
機関車の通過を待ち線路に戻す、という大胆な運行になっているようです。

ネパールの駅 ↓
Nepal_Railways_14

インドと中国の両国と国境を持つネパールでは現在、
中国が軍事援助を、インドは鉄道援助を、という援助合戦が繰り広げられていますが、
あまり積極的ではないようで、ネパールの鉄道事情はしばらくこのままだろう、と言われます。

参考リンク ↓ (すごく面白かった! )
Janakpur Railway
India鉄道で行く祭りと定期市(11) ネパール鉄道のインド側




<インドにおける鉄道>
100px-India_

インドの方からもコメントがありました
インドと言えば、よくこういった画像 ↓ が貼られているわけですが、
2001-01
郊外ではともあれ、
インドの首都圏では急速に整備が進んできているんですね。

svg
インドの鉄道路線網 ↑  (出典:インドの鉄道

最近の綺麗な客車 ↓
india001

インドの特急列車 ↓

ごめんなさい、最後のは悪ふざけです(笑)

・・・冗談はさておき、そもそも、
インドの鉄道は日本の鉄道よりも20年近く前に作られ、整備されてきました。
元々、イギリスがインド植民地から富を吸い上げるために作ったようなものでしたが、
総延長は62000kmを超えてアメリカ・ロシア・カナダ・中国に次いで世界第5位と
その規模は非常に巨大なものとなっており、
インド経済の発展に大きな役割を果たしてきたのも事実です。


インドと日本における鉄道の大きな違いといえば、
やはり貨物輸送と旅客輸送の比率の違いでしょう。

日本の鉄道の年間旅客輸送人数は約8.99億人、
それに続くインドの鉄道の輸送人員が約6.52億人となっていて
年間を通じて世界で一番、人を運んでいるのが日本の鉄道 となります。

一方、インドでは物流の多くが鉄道により行われています
最近になり その環境性能から見直されいる鉄道輸送ですが、
日本では自動車に引き離されており、そのシェアはわずか1%にとどまり、
世界の鉄道輸送ランキングでも19位と大きく後退していますから、
日本ではいかに旅客輸送の割合が高いのか、分かると思います。
Railway ranking
出典:鉄道貨物輸送量 国別ランキング統計・推移(世銀)


インドでは最上級のエアコン付き一等寝台と一般庶民が乗るエアコン無しの2等座席車で
運賃が10倍以上も違いますし、長距離列車ともなると 
最下等と最上等では15~40倍くらいの運賃格差がありますので
インドの格差社会は鉄道においても顕著である、と言えるでしょう。


ちなみに、インドの鉄道と言えば、やはり遅れるのは当たり前であり、
車両のほうも、お世辞にもきれいとは言い難いもの。

そんななか、インドの地下鉄であるデリー・メトロはすべての車両にエアコンを装備、
清潔な車内を誇り、ラッシュ時には2.5分間隔で運転され、
(参考までに モスクワの地下鉄が1分30秒、東京メトロは1分50秒) 
世界トップクラスの運行密度を達成するなど、飛躍的な進化を遂げました。
参考:モスクワ地下鉄の高頻度運行管理(pdf)

さらに、2021年には世界最大級の都市鉄道網になる事が予想されています。
04-025pg
出典:別冊「インドのメトロの概況」目次2010 年度 (外務省pdf)

この地下鉄を作るのには 日本政府からの円借款供与と協力があったわけですが、
建設に携わったインドの人々が
「日本人からは技術以外にも大切なものを学んだ」 と、口を揃えて言います。
今回は、有名な あるお話 をご紹介させていただきます。

麻生元首相著書 「とてつもない日本」 -はじめに- および、麻生さんの演説会動画などから抜粋
 平成17(2005)年の暮れ、外務大臣としてインドを訪問する機会があった。
首都ニューデリーに滞在中、できたばかりの地下鉄を視察したのだが、
この時インドの方々からうかがった話が今でも忘れられない。
 
この地下鉄視察が日程に組み込まれたのは、
日本の政府開発援助(ODA)を使って建設されたものだからであった。

入口に巨大な看板が出ていた。
04-027pg
日本のODAで作られたと堂々と書いてある。
どこかの国のように、ODAをもらっているのを国民に知らせないようなことはしていない。

エスカレーターで地下に降りると、巨大な円グラフがある。
4分の3が緑で塗ってある。そこに日の丸が書いてある。
04-026pg
言葉がわからない人でも、見れば日本のお陰だとわかる。 

私たちが訪ねた駅には日本とインドの大きな国旗が掲げられており、
日本の援助で作られたということが大きな字で書いてあった。
04-028pg
(一番下にIndo-Japan Co-operation Project [印日共同プロジェクト] と書かれている) 出典元


その配慮に感激し、私は地下鉄公団の総裁に御礼の言葉を述べた。
すると、逆にこんなふうな話をしながら、改めて感謝されたのである。

 『自分は技術屋のトップだが、最初の現場説明の際、
  集合時間の8時 2~3分前 に 行ったところ、
  日本から派遣された技術者は
  すでに全員作業服でヘルメットを着けて並んでいた。

  我々インドの技術者は全員揃うのにそれから10分以上かかった。
  日本の技術者は誰一人文句も言わず、きちんと立っていた。

  インド側の責任者として、自分が 「全員揃いました」 と伝えると
  日本人の責任者は苦言を呈した。

「8時集合ということは8時から作業を開始するということだ」

「その背広、着たまま 作業をするつもりか」

「そんな格好で現場なんかできるわけないだろうが」
 
  悔しいので翌日7時45分に行ったら、日本人はもう全員揃っていた。
  次の日は さらに早く、7時30分に行くと、
  日本人技術者たちが着替えている最中であった
  そこでようやく、一緒に着替えをすることができた

  以後このプロジェクトが終わるまで、
  日本人が常に言っていたのが 「ノーキ(納期)」 という言葉だった。

  決められた工程通り終えられるよう、一日も遅れてはならないと徹底的に説明された。
  いつのまにか我々も 「ノーキ」 という言葉を使うようになった。

  日本人は一緒に働いた。
  働くということの美学を日本人は見せた。
  それで2か月半も早く工事が終わった。 

  これだけ大きなプロジェクトが予定より2か月半も早く完成するなど、
  もちろん、インドで初めてのことだ。

  工事が終わったところで、次に来た奴は
  また全然 別の種類の日本人 (運行担当) だったんだが

  これまた言ったことはたったひとつ

「on time」
 
  今度は英語だった。

  全員ストップウォッチを下げて

  「ピィー」 と笛が鳴ったら
  ドアが閉まるまでに四秒
  ドアが閉まってから 動き出すまでに五秒

  止まる場所は 三センチずらすな
  一インチ以内におさめろ

  ということを徹底して言って地下鉄を時間通りに運行するよう言われた。
  秒単位まで意識して運行するために、徹底して毎日訓練を受けた。

  その結果、現在インドの公共交通機関の中で、
  地下鉄だけが数分の誤差で運行されている。

  インドでは数時間遅れも日常茶飯事であり、
  数分の誤差で正確に動いているのは唯一この地下鉄だけである。
  これは凄いことだ。
 
  我々がこのプロジェクトを通じて日本から得たものは、
  資金援助や技術援助だけではない。

  むしろ最も影響を受けたのは、
  働くことについての価値観、労働の美徳だ。

  労働に関する自分たちの価値観が根底から覆された。
  日本の文化そのものが最大のプレゼントだった。

  今インドではこの地下鉄を 「ベスト・アンバサダー(最高の大使)」 と呼んでいる――。』
 

 私はこの話にいたく感銘を受けた。
地下鉄建設に携わった日本人技術者たちの仕事ぶりそのものが、
優れた外交官の役割を果たしたのである。

彼らはなにも、よそ行きのやり方をやって見せたわけではない。
いつものように、日本で普通に行なっているスタイルで仕事をしたに過ぎない。

しかしそれが、インドの人々には 「価値観が覆るほどの衝撃」 だったのだ。
インドへは日本政府の政府開発援助も関わっていて
日本から人材も派遣されたわけですが、当時、現地インド人労働者の方々は
工事の時も安全靴やヘルメットを着用する習慣がなかったんですね。

仕事でも資機材を常に整理整頓し、決まりや時間を守る日本人たちに次第に影響を受け、
それが大きな財産となったとのことです。

このお話にはさらに続きが・・・。

降車する乗客を待つという習慣がないインドでは、
列に並ぶといった習慣もなく、列車のドアが開いた瞬間に一斉に乗り込んできます。
良いものを作っても、使う人間次第で遅延を防げないというのは、
日本での長年にわたる鉄道運行経験から分かっていました。

そのため、日本側は定期的に専門家を派遣し研修を行ったり、
ホームに整列用のラインを引き、さらに 人員による乗客誘導を指導した結果、
日本ほどではないにせよ、整列し列車を待つ習慣が出来つつある、とのことです。

「こういったところまで伝える事ができたら、そこで初めて仕事が完了した、と言える」
と日本人技術者は語ります。
 
あくことなき追求心が日本の鉄道を発展に導き、支えているのかも知れませんね。


India–Japan relations (wikipedia) -インドと日本の関係-
上記英語ページにおいて、インドと日本は古くから持ちつ持たれつの関係であり、
現在、日本はインドの最大の援助国である、との説明があります。
fig_map_india1
ともあれ、デリーメトロの件のこともあり
インドのニューデリー付近では日本の鉄道がどういったものかを
知っている方が多いようです。

さて、今回も長くなりますので、このあたりで一度失礼させていただきます。
海外の反応コメントも含めて、残りは続編にてお届けしたいと思います。

前編の最後に、インドのスター達に元気づけてもらいましょう(笑)

【365歩のマーチ】インドのスター達が元気づけてくれる動画


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年も皆さま方に良いことがたくさんありますように!